背徳
風呂上がりの秋子がリビングに足を踏み入れると、一人娘の名雪が食い入るようにしてテレビを観ていた。
「あら、珍しいわね。名雪がこんな時間まで起きているなんて」
「うにゅ、この番組が終わるまで〜」
秋子が視線を画面に向けると、女性のナレーションともに可愛らしい動物たちが映っている。それを見逃すまいとすっかり糸目になっている名雪が体を左右に揺らしながら口の端を緩めていた。
「かわいいよ〜、かわいいよ〜」
「あらあら」
とても高校生には見えない娘の姿に、とてもその母親とは思えない彼女が頬に手を当てるいつものポーズで穏やかに微笑む。
そして約10分後、エンディングテーマが流れ画面がCMに切り替わると、反射的に名雪が立ち上がった。
「お母さんおやすみ〜」
「おやすみなさいね」
おぼつかない手つきでスイッチを消すと、満足しきった幸せな笑みを漂わせて名雪がふらふらと自分の部屋に向かっていく。そして入れ違いにリビングに入ってきた人物を見て、秋子の瞳が妖しく光った。
「……祐一さん」
一瞬にして雰囲気を変えた秋子に飲みこまれるように、祐一はこくりとうなずいていた。
背徳の情事とはなんと甘美なことか。
媚肉に絡め取られた若い性はもはや逃れる術はない。
ただ、熟れた果実の香りに引き寄せられる昆虫のごとく利用されるのみ。
しかし、目の前の女性はそれだけの価値がある。
秋子はソファーに腰を下ろした祐一にしなだれかかるようにして絨毯の上に膝をついた。
「ああ、たまらないのぉ」
既に下着の中でその存在を主張していた祐一のモノを解放させると、白魚のような指が絡みついた。具合を確かめるように二、三度しごくとためらいもなく口の中に含んでいく。
「ううっ」
熱くねっとりした感触が祐一のモノを包み、それだけで達してしまわんとばかりにびくびくと口の中で震えた。
「ふふぅ、まらはやいですよ」
甘く舌足らずな声と潤んだ瞳に捕えられ、慌てて祐一は目線をそらした。このまま見詰め合うのは危険過ぎると直感が働く。
「ふふぅ」
秋子はそんな祐一の様子に微笑んだ。
ジュルーーッ。
「くはっ、秋子さんっ!?」
チュッ、チュッ。
思いっきり頬をすぼめて吸われたかと思うと、一転してついばむようなキスの雨を降らせる。そしてまた吸われた。ピチャピチャとなめまわす音が耳を通して全身を刺激する。
「どうですか?」
「き、気持ちいい……です」
この関係が初まったころは祐一の方が主導権をとっていたはずなのに、いつの間にか立場が逆転していた。そしてそのことに祐一は慣れきってしまっている。
そう、秋子が自らを慰めていた姿を見てしまった日はいつだっただろうか。
しかし考える間もなく現実に引き戻される。口の中で締めつけられ、さわさわと滑る一つ一つの指がそれぞれ素晴らしい快感をもたらす。祐一は体を仰け反らせてソファーに体を押しつけ、それでも足りないとばかりに眉をきつくしかめなんとか耐えていた。少しでもその時を遅らせようと意地を張る。
それは秋子にとっては泣くのを堪える幼児に思えたかもしれない。上目遣いにそんな様子を見ていたかと思うと、一気に喉の奥まで飲みこんだ。
「うぅっ」
「いいれぇんすよ、だしてしまっれも」
太ももをなでていた手が陰嚢へと移り、不意に尿道口を舌先で突つかれては経験の少ない祐一にはどうしようもなかった。
「くはっ」
うめき声を漏らすとともに祐一はあっさりと欲望を吐き出していた。それでも腰をつきぬける快感を一瞬たりとも逃がすまいと、とっさに秋子の髪を掴んで自分のをさらに押しつける。秋子は苦しい顔一つせずにそれを受け止めていた、いや、それどころか飲み干しているようだ。
「はあぁっ、すごすぎる……」
痺れるほどの快感にしばらく硬直していた祐一は精液と唾液にぬめるモノを引き抜いて息をついた。先端から秋子の唇まで白い淫猥な糸が走る。
「ふふ、いっぱぁい」
祐一のモノは白濁した液体が口の端からとろりと零れ落ちる淫猥な姿を見ただけで力を取り戻していた。
「今度は、私も気持ちよくしてくださいね」
夜着を惜しげもなく脱ぎ捨て下着だけの姿になると、さらに女の匂いが強く薫った。白い肌はかすかに朱に染まり、レースをあしらった髪の色と同じ下着が映える。
「……分かりましたよ」
秋子は艶然と微笑み、空いている祐一の隣りに上がると仰向けになって右足を背もたれに預ける。祐一は腰を抱えこんで自分の元に引き寄せると、お返しとばかりに下着の上から激しくむしゃぶりついた。
「ふあっ!」
天井を挟んだ名雪の部屋まで届きそうな歓喜の声に思わず祐一は口を離す。
「名雪に聞こえちゃいますよ」
「うふふ」
注意にも秋子は笑うだけで催促するように腰をうねらせてきた、股布はすでに祐一の唾と自らの液で大きなしみを作っている。その向こうが透けてさらに淫靡な光景を見せた。思わず唾を飲みこむ、そして秋子の味を感じてさらに昂ぶっていく。
「まったく、秋子さんがこんないやらしい人だったなんて思いませんでしたよ」
「あら? そうしたのは祐一さんですよ」
「……絶対に嘘だ」
「うふふっ」
祐一に見せる大人の笑み、初めから祐一には勝ち目はなかったのかもしれない。秋子の部屋でひめやかに行われていた行為も、いつしか大胆にその場所を変えている、すべて秋子の主導によって。
祐一は諦めて再びそこに口付けた。息を吸うと同時に甘い色香が脳を強く刺激して、さらに酩酊したように目の前がかすむ。
やがて我慢できなくなった祐一が下着に手をかけると秋子も脱がせやすいように腰を上げた。秋子が膝を曲げて右足を抜くと下着が足首に引っかかって留まる。
「すごい……」
初めて見るわけでもないのに、何度でも新鮮な欲望を祐一に訴えかける。秋子の花弁は子供を産んだとは思えないほど清楚なたたずまいを残していた。
「入れていいですか」
喉を鳴らしながら熱に浮かされたように声を発する祐一にはそこだけしか目に入っていない。それを示す証拠として十分なほどに祐一のモノはそそり立っていた。
「祐一さんのお好きなように、ね」
言いながら求めているのは秋子も同じなのか、体を起こすと手を伸ばして自ら導いていく。祐一のモノが触れるとそこは歓迎するようにわなないた。あとは祐一が軽く力を入れるだけで簡単に飲みこまれていく。それでいて、中の膣壁はびっちりと包みこんで絡みついていく。
「はぁんっ……祐一さんのがいっぱい……」
「あうう、凄い……熱くて……どろどろで」
熱に浮かされるように独り言を呟きながら祐一は腰を突き出した。潤沢に溢れる愛液がふたりの横たわるソファーに大きなしみを作る。
「もっと、もっと激しく……ね」
祐一の動きに合わせて体を揺らせながら秋子の足が腰に巻きついた。負けじと祐一の手が目の前に息づく胸に伸ばされる。
「ひゃうっ」
秋子も新たな快感に喜びの声を上げた。それでも足りないのか貪欲に快感を貪ろうと、余裕のない祐一にさらにおねだりをする。
「もっとこすってください……」
「くっ、俺もう……」
しかし祐一は既に限界に近い状態であった。動けば動くほどうねる秋子の膣に何かを搾り取られている感覚に陥り、精を放つのを防ぐのに強固な自制心が必要だった。歯を食いしばってなんとかやり過ごし大きく息をつく。
祐一の額から流れる汗が頬を伝い落ち、秋子の滑らかなお腹に痕を残した。
「もっと、祐一さんを、はあ……感じ……させてください」
「そんなこと、言われ……」
先に果てるのは避けたいと祐一の手が秋子の形のよい胸を荒めに揉みしだく。指の形にへこんだそれは、をそしてさらに強い刺激を与えるべく体を倒してつんと尖った乳首に吸いついた。時折甘噛みして秋子の反応を見る。
「いいっ、です、よ」
そして残り少ない時間を使い祐一はラストスパートをかけた。ふたりの体がぶつかりあう音と、ぬかるんだ水音がひときわ大きくなる。
「そ、そろそろ、いいですか……俺、もう……」
「はい、くださいっ、はあっ……祐一さんをくださいっ」
秋子の言葉に応えて祐一は二度目の精を放った。
余韻に浸っているふたりにその足音は聞こえなかった。
「お母さん……なにしているの?」
咎めだてする声に初めて振りかえる。そこには信じられない光景に立ち尽くす名雪の姿があった。
「なっ、名雪?」
信じられないという気持ちは祐一も同じなのか、すっかり下半身を隠すことも忘れ唇を噛む。こんな時間に名雪が起きているなんて完全に計算違いだった。
「トイレに行こうとしたら変な声がするから気になって覗いてみたら……」
やはり聞こえていたのか、焦りをみせる祐一とは対照的に既に平静を取り戻している。
「あらあら、覗き見なんてお行儀が悪いわね」
「お母さん、そういう問題じゃないでしょう! し、しかもこんなところでっ」
ふたりの生々しい姿を視界に入れないように視線を逸らしながら名雪が吐き捨てる。母のイメージを根底から覆され極度の混乱状態に陥っていた。
「しかたがないから名雪にも参加してもらいましょう、ね、祐一さん?」
それなのに、当の本人はどこか楽しげな表情を浮かべている。
「……あ、ええ」
すべてを搾り取られて虚ろな祐一が曖昧な返事をする、秋子にはそれで十分だった。もとより必要はなかったのかもしれない。ゆらりと立ちあがると、先程出された精液が太ももを伝い落ちた。あまりにも卑猥に名雪の顔がかーっと赤くなる。
「ちょ、ちょっとお母さんどうしちゃったの? こんなの変だよっ」
「あら、ちっとも変じゃないわよ、家族の仲がいいのは素晴らしいことでしょ」
足の動かない娘の腕を掴むと難なく自分の体に引き寄せた。
「ふふ、あなたの憧れていた祐一さんに、大人にしていもらいましょうね」
名雪は弱々しく首を振るのが精一杯だった。
「ごくっ……それでどうなるんだ?」
「もちろんその後は娘を加えてだな……どうだ、観たいか?」
誰もいない教室、そこにふたりの男が顔を付き合わせてなにやら話をしている。片方の人物は手にラベルの貼られていないビデオテープを持っていた。
「観たいっ! というか観せてください、住井様」
話を聞かされてすっかり興奮状態の浩平が手を合わせて拝むポーズをする。
「ふっふっふ、よいかな、よいかな……さあ、折原よ、俺様を崇め奉るのだ〜」
「ははあ〜、住井様ありがとうごぜえますだ〜」
わけの分からないノリでひとしきり盛り上がると、住井は頭を下げる浩平を満足げに見下ろしながら一本のビデオテープを渡す、そして手を離そうとしてそのまま固まってしまった。
住井の手が離れないことに不審を覚えて浩平が顔を上げる。
「……浩平……」
その時背中から聞こえてきた昏い声に浩平の背筋が凍りついた。
「はうあっ?! なっ! 長森……さん」
瑞佳は浩平の手からビデオをひったくると冷たい目でふたりを睨む。
「浩平と一緒に帰ろうと思って呼びに来たんだけど、ふたりが話に夢中になっているから邪魔かなあと思って待ってたんだよ……ここまで来たのに気がつかないなんてね」
「ええと……聞こえてました?」
汗をだくだく流しながらそれだけを言うのが精一杯のようで、そーっと離れようとする住井の動きには気づいていない。
「ふ〜ん、浩平ってばそういうのが趣味なんだぁ」
が、住井も動揺が抜けないのか、ふらついた体を近くの机にぶつけてしまう。その音に我に返った浩平が住井の服の袖を掴んだ。
「あ、え、えとですね……こ、こらっ! 住井、逃げるなっ!! そうだ、こいつがっ! こいつがぜひ見せたいって言うからっ!! 俺は仕方なくっ……」
「ああっ、人のせいにするなよっ!!」
親友同士による見苦しい責任の擦り付け合いにため息をつきながら、
「……住井君、あんまり浩平を怪しい道に引きこまないでね」
「そ、そうだ! 反省しろ住井っ!」
「それじゃ、浩平を借りていくから」
「……はっ?」
「あ、どうぞどうぞ」
あからさまにほっとした顔を見せる住井とは対照的に、哀れなほどうろたえてしまう浩平、逃げようとするもがっちりと掴まれた腕は離れる気配もない。七瀬以上の力強さに改めて瑞佳の怒りの強さを知り、ますます浩平の顔色が悪くなっていった。
「ありがとう、じゃあ行こうね、浩平」
「どこへですか?」
「う〜ん、聞きたい?」
怒りをまったく隠さない笑顔を向けられ、浩平ががくんと肩を落とす。
「……いえ、いいです」
そしてこれ以上ないくらい情けない顔で引きずられていく浩平を住井は見送ったのであった。
「明日学校に来られるかなあいつ……あ、長森さんにテープを持ってかれちゃった」